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助成対象詳細

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2020 先端技術と共創する新たな人間社会     

地域課題を題材とした高専における実践型IoT教育カリキュラムの研究


Research on Practical IoT Education Curriculum at Kosen
 

企画書・概要

Abstract of Project Proposal

近年、急速に進展している AI や IoT といった先端技術は近い将来に社会インフラの一端を担うことが見込まれるが、その構築や運用に関わる技術者の育成や、課題を見つけ自ら実践して解決策をさぐるエンジニアリングに対する教育体系は確立されているとは言えない。

日本には独自の技術者教育システムとして高等専門学校(高専)がある。高専は「深く専門の学芸を教授し、職業に必要な能力を育成する」ことを目的として設立された、15 歳からの早期専門教育が特徴の高等教育機関である。

本研究では、先端技術を扱える次世代の技術者育成を見据え、高専における実践的な IoT 教育カリキュラムを構築し評価する。教育カリキュラムの題材は、PBL 形式による地域課題解決の実践とする。

具体的には、高専の学生と地域の小中学生が共同で課題を発見し、AI や IoT 等で解決の手法を構築する。IoT 教育と地域での実践には、ハードウェア及びソフトウェアをモジュール化したIoT デバイスを活用する。これにより学習コストが削減し、解決手法の実現可能性を向上させる。

学習の定着には、実践と他者への教示が有効であるとされる。カリキュラム試行後は学生を対象に理解の深度を分析し、その有効性を検証する。

また、構築した教育カリキュラムに基づき、全国展開に向けたモデル構築を実施する。

Advanced technologies such as AI and IoT are expected to play a role in social infrastructure in the near future, but the education system for training engineers in the construction and operation of these technologies and for engineering, which seeks solutions by identifying problems and putting them into practice, has yet to be established.
Japan has its own education system for engineers, known as a national institute of technology (Kosen). Kosen is a higher education institution established for the purpose of "teaching arts and sciences in depth and fostering the abilities necessary for a vocation" and is characterised by early vocational education from the age of 15.
In this study, a practical IoT education curriculum at a Kosen is constructed and evaluated with a view to training the next generation of engineers who can handle advanced technologies. The subject matter of the educational curriculum is the practice of local problem solving in the PBL.
Specifically, students of Kosen and local elementary and junior high school students will discover problems together and construct methods to solve them with AI and IoT. IoT devices with modular hardware and software are used for IoT education and local implementation. This will reduce learning costs and improve the feasibility of the solution approach.
Practice and teaching others are considered effective for retention of learning. Analyse the depth of understanding with students after the curriculum trial to test its effectiveness.
 

実施したプロジェクト内容と方法

Describe the implemented project and the method used

本プロジェクトでは,仙台高専の専攻科一年生(普通大学の三年次に相当する学年)を対象とし,既存の実習授業に合わせこむ形で,IoTシステム開発実践教材「IoTシステム開発PBL」,「サービスデザインワークショップ」を構築しました。「IoTシステム開発PBL」,「サービスデザインワークショップ」では,学生が学外の地域を訪れ,その土地の事業者から課題を聞き取ります。聞き取った課題に基づき,課題を解決するためのサービスデザインを行った上で,IoTシステム開発を行います。仙台高専は4Q制を導入しており,4月から6月を1Q,6月から8月を2Q,夏季休暇を経て,9月から11月を3Q,11月から2月を4Qとしています。専攻科一年生の学生をいくつかのグループに分け,一年を通じてグループ単位での活動を行いました。1Qでは「ソフトウェア論」の講義にて,地域課題の聞き取りとサービスデザインを行います。2Qでは「組み込みシステム設計」の講義にて,サービスデザインに基づくIoTシステムの開発を行います。3Qでは専攻科一年生の大部分は企業へのインターンシップに出ます。学内に残る学生は「専攻実習」の講義にて,IoTシステムの開発を継続します。そして,4Qでは「専攻研究」にて,IoTシステムの最終調整を行い,成果発表を行います。前年度の成果を次の世代が引き継げる様,授業の一環として先輩・後輩間での情報共有ができる場面を設けるなどの工夫をしています。

 学生たちが活動をする鳴子温泉地域には,小学校,中学校が設置されていますが,高校は設置されていません。周辺地域は農業や観光サービス業が盛んな地域ですが,工業は盛んとは言えず,地域の子どもたちの技術との接点は限られ,中学卒業後の進路選択の幅は広いとは言えません。そこで,本プロジェクトでは高専の教材構築と並行して,小学校との連携を進めました。

 鳴子温泉地域にある大崎市立川渡小学校には,学年PTAの授業があります。年に一度PTA役員の保護者が提案する授業を,保護者も参加して実施します。5年生PTA役員の保護者の髙橋さんの協力を得て,5年生の学年PTA授業にて「プログラミング教室」と銘打って,IoTの体験授業を実施できる様調整をしました。当日は,プロジェクトに参加している学生2名と教員1名が参加しました。高専とは何か,IoTとは何かの説明をした上で,IoT機器を使ったプログラミング体験をし,最後にこのプロジェクトで開発しているシステムについて,学生から発表しました。授業の後,生徒たちは自分から学生や私たちの元へやってきて,「高専に行くためにはどんな勉強をすればいいんですか。」など,しきりに質問をしてくれたことが印象的でした。

  • 地域の現場を訪れる
  • 地域の小学校での授業風景
  • 地域での成果報告会

助成期間終了時点での成果と今後期待される波及効果等

Describe the results at the end of the grant period and expected ripple effects

本プロジェクトで協働をした仙台高専は,国立高専機構が推進する「Society 5.0型未来技術人財」育成事業の一環として,DX時代に向け,AI・数理データサイエンス,IoT等の先端技術を,これからの技術の高度化に関する羅針盤(COMPASS)と位置付け,高専教育に組み込むことで,新たな時代の人材育成機関としての高度化を図る「COMPASS 5.0 (次世代基盤技術教育のカリキュラム化)」において,IoT分野の拠点校に指定されています。本プロジェクトを通じて研究された「実践型IoT教育カリキュラム」は,IoTシステム開発実践教材「IoTシステム開発PBL」,「サービスデザインワークショップ」として,IoT・アントレプレナーシップ教育パッケージの一部となり,全国高専で活用できるよう展開されます。仙台高専においては,学生の社会との接点が増え,カリキュラム参加前と比較すると,修了後は学生がより能動的になったとの声がありました。
 助成期間は終了しましたが,専攻科一年生向けの授業を2023年度も継続して行なっています。助成期間中3者だった地域の参画事業者は4者に増え,地域への浸透が感じられる様になりました。加えて,鳴子温泉街のDXに取り組む別なプロジェクトが発足しました。仙台高専と,まちづくり会社,地域の商店,市役所鳴子支所の4者が共同で,温泉街の観光周遊支援システムの構築に取り組みます。この取り組みは「高専ワイヤレステックコンテスト2023」の一環として行われ,6月1日に採択が発表されました。これまで鳴子温泉地域では,地域の課題に対して先端デジタル技術を使ったアプローチがされることはありませんでした。高専の学生が出入りをする様になったことで,先端デジタル技術を具体的にどの様に使うことができるのか,見立てができる様になってきたことなど,本プロジェクトの2年間を通じて地域における先端デジタル技術への障壁が低くなったことも成果の一つであると考えられます。
 結びとして,本プロジェクトを通じて,鳴子温泉・岩出山地域における,先端デジタル技術及び高専との接点が生まれました。地域においては,獣害や人手不足などの社会課題に対して,先端デジタル技術を用いることでよりよい暮らしを作り上げていくことができること。高専においては,学生たちが履修する先端デジタル技術が,机上だけではなく,実社会においてどの様な利活用ができるのかを知る機会を作れたこと。先端デジタル技術と人間社会との共生のあり方について,地域・高専の双方が知見を新たにするきっかけが生まれたのだと感じています。また,双方において助成期間終了後も取り組みを継続する意思があり,現実に継続されていることから,一事業としてだけではなく,先端デジタル技術を活用して課題を解決していくことが,「地域の文化」として定着をすることを目指して今後も取り組んでいきたいと考えます。
  • カリキュラムのスケジュール
  • 協力事業者
  • 2023年度の講義風景

成果物

Projects Outputs

メディア掲載

List of Media Appearances

プロジェクト情報

Project

プログラム名(Program)
2020 先端技術と共創する新たな人間社会     
助成番号(Grant Number)
D20-ST-0033
題目(Project Title)

地域課題を題材とした高専における実践型IoT教育カリキュラムの研究


Research on Practical IoT Education Curriculum at Kosen
 
代表者名(Representative)
齋藤 理 / Osamu Saito
代表者所属(Organization)
SomeSpice合同会社
SomeSpice LLC
助成金額(Grant Amount)
5,200,000
リンク(Link)
活動地域(Area)

宮城県大崎市鳴子温泉地域