助成対象詳細
Details
企画書・概要
Abstract of Project Proposal
急速な人口減少という課題を抱える佐渡島では、地域コミュニティや学校の弱体化が深刻な課題となっている。同時に、これまでトキの野生復帰事業などユニークな自然共生の取り組みを展開してきたにもかかわらず、地域課題に取り組むアクターが十分に育っていないという状況がある。社会や産業の弱体化をプラスのスパイラルへと変えていくには、探究マインドをもったアクターの醸成が不可欠となっている。
そこで、これまで学校や地域で行われてきた「地域学」を見直し、佐渡島の地域資源のよさを生かしながらも、そこにアクターとして必要な要素(対話をする、共に考える、協働する、アクションを起こすなど)を高めていく観点を加え、「探究型地域学」のプログラムの開発をめざしたい。そのために必要な現場調査や国内外の事例調査、学びの場づくりへのニーズ調査などを実施し、プログラムのプロトタイプを構築する。
実施したプロジェクト内容と方法
Describe the implemented project and the method used
わたしたちの活動は、「コミュニティのレジリエンスは、地域で暮らす人びとの探究マインドが活性化されることで高まっていく」という仮説にもとづいて展開した。目指したのは、子どもから大人までさまざまな世代が共に考え、地域変革のアクションを模索する場を作っていくことである。そうした学びの場を創出するために必要な調査を、本事業を通して進めていきたいと考え、主に4つの観点から調査を進めた。
①佐渡島の学校や地域で展開されている「地域学(佐渡学)」の調査
島内小学校で展開されてきた地域学の状況について、教員や環境NPO関係者などを対象に15件の聞き取り調査を実施した。また、佐渡市総合教育センターから提供された資料をもとに、過去の総合的学習の時間の取り扱いテーマと実施学年の整理を行った。こうした基礎的調査にもとづき、島内の小中学校における地域学の実施状況について、佐渡市教育委員会の協力のもとアンケート調査を実施した。小学校9校23学級、中学校12校33学級から回答を得ることができ、佐渡島の小中学校での総合的学習の時間における地域資源を生かした探究学習の実施状況を整理した。
②国内外の地域学やSDGsのさまざまな革新的プログラムについて情報収集
文献やインターネットの情報をもとに、国内外11の事例を調査し、そのうちの5つの事例(きのくに子どもの村学園、広島県立大崎海星高等学校、p4cひめじ自主研究会、一般社団法人播磨ひとづくりコンソーシアム、MORIUMIUS)について視察を行い、探究的な学びへのアプローチについてより詳しい情報収集を行った。興味のあることについて子どもたちが主体的に調べていく探究のプロセスは、その要素を分解すれば、教科指導で培うべき学力や見方・考え方の習得と連動させることができることを知った。子どもの「やりたい」を尊重しながらも、「持続可能性」や「循環」といった重要なテーマについて学ぶ場を作ることの意義を改めて認識した。
③「学びを探究する」対話ワークショップの開催
地域の教育関係者や市民の参加を募り、地域の教育課題や探究学習について考えるワークショップを5回実施した。探究的学びに従事する方々を講師として招き、さまざまな事例とその背景にある設計者の思いについて学ぶ機会となった。複数回の対話のなかでキーワードとして何度もあがったのが「失敗」である。探究には失敗も含めてトライする余白が必要であり、作り込みすぎないプログラム作りが重要であるという認識を得た。
④探究型地域学のプログラム&スキームを構築する
②や③の取り組みを参考に、探究型地域学のプロトタイプとして「こども修行プロジェクト」という計6回の学びのプログラムを考案し、試験的に実施した。このプログラムは、地域の自然について体感的に得られた発見を言語化し、哲学対話を通して理解を掘り下げることを目標とした。これまでに延べ45名の子どもが参加し、保護者からは「探究を体験したことで子どもに変化が見られた」「対話に参加したことで、親子でのコミュニケーションも増えた」「大人にも探究的経験は必要ではないか」といった感想を得た。
①〜④の調査について広く情報共有を図るために、フォーラム「佐渡島の探究的学びの可能性を探る」を2022年6月25日に実施した。調査報告とともに、日本一の探究学校と評価される福井県若狭高等学校の事例を紹介し、これからの佐渡島での学びのあり方を考える機会を創出した。また、上記4つの視点からの調査等をもとに、佐渡島探究スクールの構想など、発展的展開を検討した。島内に地域学や探究的学びのさまざまなアクターが存在することを考えると、そうした学びを提供するしくみを新たに構築するよりも、まずはアクターがつながるプラットフォームを構想し、その中で相互的な刺激を生み出しながら、それぞれの取り組みを発展させていく重要性を認識した。そこで、探究的学びのプラットフォームを構築することを次の目標とし、探究型地域学の発展的展開を探ることとした。
助成期間終了時点での成果と今後期待される波及効果等
Describe the results at the end of the grant period and expected ripple effects
地域ならではの題材を扱い、子どもたちの地域とのつながりを深めていく「地域学」の実践が、日本各地の教育現場で広がっている。例えば、佐渡市内では、2010年ごろから地域学が推奨され、トキ、能、金山といった地域資源を生かした学習が行われてきた。こうした学習は、地域への愛着につながることが期待され、小学校から高校までさまざまな段階で取り入れられている。ただし、多くのプログラムは地域についての情報を学ぶにとどまっており、新学習指導要領が示すような「主体的・対話的で深い学び」に繋がっていないのではないかとの疑問をわたしたちは抱いた。
地域学にはさまざまなテーマがあるが、どのようなテーマでも何らかの探究的アプローチを加えることで質的変化を生み出すことができるのではないかと考えた。そこで、本プロジェクトでは、「探究型地域学」というキーワードをもとに、地域について学ぶだけでなく、子どもたちの探究マインドを醸成する学習機会の創出について、検討することとした。佐渡島内の地域学の実施状況や、国内外の探究的学びの事例について情報収集するともに、学びについて問い深める対話ワークショップをひらいて、「探究」について問い深め、地域学の新たなあり方を模索した。
探究的学びを追求するなかで重要な観点として見えてきたのは、「余白」の重要性である。事例調査や対話を通して、いかに余白を作るかが、探究の質的変化に大きく影響するという認識を得た。余白とは、あらかじめ到達点が決まっていないことから生まれる考える余地であり、失敗を許容するおおらかさから生まれる挑戦の可能性である。本プロジェクトで調査した事例では、余白の大きさがそれぞれ異なるものの、余白を大切にするという考えが共通して見られた。
ただし、特に学校教育という枠組みにおいては、余白をつくることは必ずしも容易ではない。教師や指導者のスタンスによって、余白の有無や作り方は大きく異なる。余白は、ともすれば無駄と捕らえられてしまうこともある。余白の大きな学びでは、具体的なアウトプットをイメージしづらく何を学んだのかが見えづらくなることがある。また、失敗できる余白をつくることは重要であるが、現にもったいない失敗もある。「余白が大きければ学びの可能性が広がる」とは一概に言えない。
本事業で展開した対話から見えてきたことの一つに、学びの場における余白の価値が発揮されるためには、「内省」が重要ではないかという見方がある。余白と内省をしっかりと組み合わせていくことで、自由な思考や挑戦的失敗が、子どもたちの能力を向上させていくことにつながると再認識した。そこで、本事業で構想した「こども修行プロジェクト」では、佐渡の自然をテーマにした体験的学びのあと、子どもたちがそれぞれの感性で気づきを共有し合う対話の場(異なる見方を知る)、さらには体験と対話から得た学びを各自が言語化するふりかえり(内省的記述)を組み合わせて、教育的意義のある余白の作り方を追求した。その効果検証は、今後の課題であるが、試行を通して探究的地域学の端緒を得た。
広報誌 JOINT
Joint