助成対象詳細
Details
2017 研究助成プログラム Research Grant Program [ (A)共同研究助成 ]
メキシコ東北地方における日本人移民の歴史の調査・保存と継承を目指すコミュニティー参加型プロジェクト
Community Project for Research, Preservation and Transmission of the History of Japanese Immigration in Northeastern Mexico
Community Project for Research, Preservation and Transmission of the History of Japanese Immigration in Northeastern Mexico
企画書・概要
Abstract of Project Proposal
実施したプロジェクト内容と方法
Describe the implemented project and the method used
【実施報告書】http://toyotafound.or.jp/research/2017/data/Shinji_Hirai_final_report_D17-R-0783.pdf
本プロジェクトでは、2018年5月からメキシコ東北地方に在住の日系人と共に日本人移民の記憶の調査・保存・伝承に関する様々な活動を実施した。一世が亡くなり、二世と三世の高齢化により日本人移民史と日系人コミュニティの形成の歴史を知る者が減少し、エスニック・ルーツの忘却が加速している問題に日系社会が直面していた。しかし、自分のルーツを知りたいと思っている日系人は、自分のアイデンティティを豊かにすることに関心のある四世や五世の若者だけでなく、次世代のためや亡き父や祖父を敬いたいと思っている二世や三世の高齢者もいる。
本プロジェクトはこうしたルーツ探しに熱い情熱を注いできたモンテレイ市在住の日系人を中心にプロジェクトメンバーとして招集し、研修、調査、保存と伝承に関わる活動を実施した。研修活動の中でも特に重要であったのが、日本人移民史の概要を解説し、一世のライフヒストリーと家族史のタイムラインと家系図の作成の実習を行う公開講座である。この公開講座は、ヌエボ・レオン州モンテレイ市、コアウイラ州サルティ―ジョ市、サンルイスポトシ州の日系人を対象にそれぞれ一回ずつ実施し、また2020年下半期にはオンラインで2期に渡って公開講座をメキシコ各地や海外に住む日系メキシコ人を対象に実施した。これらの公開講座の受講生は、合計で204名に及んだ。
調査は、研修期間を終えた日系人が行った事例研究で、親戚へのインタビューや一世に関連した資料の収集と分析を行った。また、一世にゆかりの地であるコアウイラ州の炭鉱夫の村に合同で遠征を行ったり、2019年7月には、8名の日系人が東京で実施したシンポジウムに参加した後、一世の故郷を訪ね、富山、岐阜、三重、山口、福岡と沖縄でフィールドワークを行った。一世の故郷では、郷土史を学び、明治から大正にかけて海外移住者を輩出に至った要因を調べ、また日本の親戚と面会し、日本から見た家族史や家系図を作成することが出来た者もいた。
保存活動は、調査と同時並行に行われ、親戚の協力で見つかった一世に関連した写真や手紙、文書などをデジタル化する作業を行った。また、公開講座受講者の中には、1930年と1935年にメキシコの全国規模の日本人社会の参加で製作されたメヒコ新報社発行の「Directorio de México Shimpo」と題した日本人名簿や、1955年に出版された「全墨日系人住所録」を所蔵する日系人がおり、デジタル化し、Dropboxwo使って受講者と共有するようにした。
伝承活動は、研究成果を講演という形で発表するだけでなく、作成した一世のライフヒストリーと家族史のタイムラインや家系図、そして、収集しデジタル化した資料などが簡単に展示できるバーチャルミュージアムの制作を行った。バーチャルミュージアムは、ホームページの作成や管理に関して高度な知識がなくても低料金で扱えるプラットフォームを選考し、レプリカビリティ(経験の移転可能性)を重視した。
また、日本で行ったシンポジウムで日系人が発表した原稿中心に11本のルーツ探しの語りを伝えるエッセイをまとめた共著の冊子を製作した。
助成期間終了時点での成果と今後期待される波及効果等
Describe the results at the end of the grant period and expected ripple effects
SNSで簡単に日常的にコミュニケーションをとれるため、コロナ禍前は、対面式の日系人との交流会を企画し、講演やワークショップを実施して非常に多くの参加者を集めることができた。上の写真は、2019年11月にコアウイラ州ラス・エスペランサス村で実施した日系人との交流会の際にヌエボ・レオン州とコアウイラ州各地、テキサス州から集まった日系人とプロジェクトメンバーの集合写真である。また、コロナ禍以降は、オンラインイベントを実施する際に、こうしたSNSを非常に有効なツールとして利用した。また、オンラインイベントを企画することで、SNSのグループに新規登録する日系人も増えていった。
しかし、日系人同士のネットワークの構築・強化・拡大は、単にデジタル通信技術のおかげというのではなく、自分と同じようにルーツ探しに関心がある日系人が他にもいるということが実感できること、ルーツ探しをすることで生まれた喜びや感動を他の日系人と共有したい気持ち、という感情的な繋がりが研修活動や調査、研究成果を発信するイベントへの参加で生まれたことが大きいて考える。
また、本プロジェクトは日系社会に新たな文化運動を引き起こす波及効果を持っていると考える。第二次世界大戦中の社会排除と人種差別の経験から一度は失われてしまった日本とメキシコの繋がりであるが、一世が亡くなり、日系社会の担い手である二世や三世が高齢化する中で、一世の故郷との絆とエスニック・ルーツの記憶の忘却は加速していった。本プロジェクトのメンバーこうした問題と向き合あい、共同でアイデンティティの構築を豊かにし、世代を超えたコミュニケーションとホームランドとの絆の再構築を促進させる知識を生産し、それを次世代への遺産として残すことを努力をしてきた。感動を与えるルーツ探しの語り手とその語りの聞き手である日系人から構成されるネットワークが、初めは小規模であったが、デジタル通信技術や視覚芸術学の貢献もあり、情報や知識、感情やアイデンティティを共有する者のサークルが重複し、拡大し、そして、加速していたエスニック・ルーツの忘却の流れを遅れさせることができる文化運動となったいった。
この文化運動を通して、ルーツ探しという本来は過去の場所、出来事、人物に関する知識を生産する日系人の「旅」が、日系人の自尊心やアイデンティティ、コミュニティの在り方といった現在を変え、自分の未来、次世代の未来に影響を及ぼす可能性を秘めていることが実感され、また期待されてきた。そして、この文化運動はエスニック・ルーツに関する知識を生産し共有させるだけでなく、親族関係やコミュニティーの求心力となる感情を生みだす力も持っていることが分かった。本プロジェクトで見出すことができた「社会の新たな価値」とは、ルーツ探しをすることで日系人がエスニック・ルーツを回復し、エンパワーメントする方法とその可能性が、世代、国籍、社会階級、居住地域を越えて、開かれたことではないだろうか。
広報誌 JOINT
Joint
プロジェクト情報
Project
プログラム名(Program)
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2017 研究助成プログラム Research Grant Program
【(A)共同研究助成
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助成番号(Grant Number)
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D17-R-0783
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題目(Project Title)
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メキシコ東北地方における日本人移民の歴史の調査・保存と継承を目指すコミュニティー参加型プロジェクト
Community Project for Research, Preservation and Transmission of the History of Japanese Immigration in Northeastern Mexico |
代表者名(Representative)
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平井 伸治 / Shinji Hirai
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代表者所属(Organization)
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メキシコ社会人類学高等研究所東北キャンパス
Northeastern Unit, Center for Research and Advanced Studies in Social Anthropology, Mexico |
助成金額(Grant Amount)
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¥6,000,000
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リンク(Link)
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活動地域(Area)
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