助成対象詳細
Details
2017 研究助成プログラム Research Grant Program [ (A)共同研究助成 ]
活用文化財としての歴史的木製什器の在野保存―新たな文化財概念の確立とその保存活用方策に関する実践的研究―
"Open Preservation" of Historical Wooden Furniture as Cultural Heritage in Use: A study of a new concept of cultural heritage and the practice of its preservation and reuse
"Open Preservation" of Historical Wooden Furniture as Cultural Heritage in Use: A study of a new concept of cultural heritage and the practice of its preservation and reuse
企画書・概要
Abstract of Project Proposal
本研究の目的は、使用することこそがその意義としてある「活用文化財」の考え方と、市民や団体に貸し出し利用に供することをもって社会で共に保存する「在野保存」の方法を、新たに定義・提案し、レスキューされた家具類を用いた社会実験によりその有効性を検証することである。
本企画は、この社会実験で得られる知見に加え、近年の木製家具の再利用に関する国内の試みや、家具の再利用が社会的・文化的に定着しているイギリスでの事例等をふまえ、問題意識を同じくする実践者らとも連携して、古いモノ―ここでは木製家具―に価値を産み出し再利用する持続的な仕組みと仕掛けを社会に提案することを目指している。
Recently, more than 300 pieces of historical wooden furniture at Kyushu University were rescued by us and they are being kept in Kyushu University Museum. They are a rare and comprehensive collection of early 20th Century school wooden furniture. In this study, we will conduct social experiments, making use of the rescued furniture by testers to verify the effectiveness of our novel concept and preservation method for cultural heritage: 'heritage in use' and 'open preservation'.
We will also conduct field research on the recent practices of the reuse of wooden furniture in Japan and on advanced examples in England.
Referring to the findings and the outcomes of the social experiments and the field research in collaboration with people who share our view, we aim to integrate sustainable systems with mechanisms, both of which create a novel value of old things like old wooden furniture and assist its reuse.
実施したプロジェクト内容と方法
Describe the implemented project and the method used
【実施報告書】http://toyotafound.or.jp/research/2017/data/Misako_Mishima_Final_Report_D17-R-0714.pdf
本研究では、代表者が所属する大学博物館が所蔵している歴史的木製家具をモデルとして、新たに「活用文化財」を定義し、その保存・活用方策として、大衆とともに使いながら保存し次世代に継承する「在野保存」を提唱し、その有効性を社会実験をとおして検証する事を当初目的とした。実施したプロジェクト内容は、(1)収集家具自体の基礎調査(分類ごとの保管整理、一次資料化=データベース化、計測)、(2)民間・公共・個人などへ什器を貸し出す「在野保存」の社会実験をとおした、課題抽出や人々の意識の変化、効果等の抽出、(3)英国および国内における古いモノの再利用・保全実践等の先行事例調査、(4)シンポジウムをとおした本質的課題の検討、(5)その他、ウェブサイトの立ち上げや催事をとおした発信、学会発表等である。このほか、一部の計画を変更し、歴史的家具の活用実践の場づくりなども試みた。
(1)の基礎調査からは、一見重複品であると思われた什器においても、微細な寸法・形状・構造の違いが明らかとなり、機械化による大量生産以前の職人による手仕事の特性が明確となった。このことは一方で、歴史的什器の保存方針として当初想定していた、重複のない唯一品を優先的に博物館保存資料として保持し原型を保つという方向性や、後で述べる在野保存で優先的に重複品を貸し出すという方向性に対し、再検討を迫るものとなった。
(2)の「在野保存」の社会実験においては、通算、個人3件、店舗8件、博物館等公共施設3件、その他1件にて在野保存を実施した。この実験をとおして、価値観・美観・目的などを相互に共有できかつ大切に使用・活用することが見込まれ信頼がおける借用者の選定や貸出配置に至るまでには数ヶ月単位での時間が必要となること、貸出条件などは個別対応となり一律の条件設定や条件公開は難しいこと、また、実践の後半では店舗・施設の要望により「覚書」を締結したが、上記と同様の理由で、一律のフォーマットでの覚書締結は難しいこと、などが明確となった。
(3)の先行事例調査では、イギリス国内26ヶ所にて木製家具類の目視調査ないしはヒアリングを実施し、また、イギリスおよび他国の大学で運用されているリサイクルについてウェブ調査を行いリスト化し俯瞰することも加え、日本における什器の活用保存への適用・応用について検討した。また日本国内では、主に当初計画に挙げていた都内(新木場)、栃木(真岡〜益子)、長野(諏訪〜松本)に加え、新潟〜上越、徳島の店舗・施設等における現存木製家具の調査や木製古物の再利用・販売等の先行事例の観察・ヒアリングなどを行い、人々のニーズや市場の動向について明らかにした。
(4)のシンポジウムは、キックオフとして開催した「使いながら守る・つなげる 新たな仕組みとしかけの提案にむけて」により、利活用における改変の可否など、モノの価値をどうとらえるか、そして新たな価値づけをどのようにするかなどが議論された。シンポジウムの文字起こしを中心とした報告書を作成した。
(5)このほか、SNSでの発信、ウェブサイトの作成、そのためのプロのカメラマンによる在野保存の写真撮影、また、催事として、部材化過程を公開して見せる家具解体ショー、公開カフェ企画、計測ワークショップ、ミュージアム展示と連動した親子むけリペア・ワークショップなどの実践をとおし、問題提起や啓蒙を行った。
助成期間終了時点での成果と今後期待される波及効果等
Describe the results at the end of the grant period and expected ripple effects
延長を含む実施期間の間に、「文化財」の保存に加えその「活用」がさらに推奨・顕在化され、「文化財=活用されるもの」との認識が浸透してきた。そのため、本研究で当初目的としていた「活用文化財」を新たに定義するということは、社会変化により自然解消したといえる。しかしながら、では「どのように活用するのか」についての実践や検証はまだ十分とはいえない。本研究は、その解のひとつとして「在野保存」を実践的に提示できたといえる。
本研究の「在野保存」の提唱と社会実験による検証について、研究紹介や学会発表時の反応はおおむね好評であり、他の研究者らにも、これまでにない挑戦的な試みとして映ったことが伺える。また「在野保存」の実践は、しばしば地方の新聞やTV報道で取り上げられ、実験開始の2018年以来、断続的ではあるがくりかえし話題となることが、現在も続いている。
特に店舗における「在野保存」は、理解ある店主らの優れた美観による空間づくりにより、来る人を楽しませている。古い家具(とはいえ必ずしも古くは見えない場合もある)が多くの人々の目に触れることとなり、古いモノが活かされることによる「新たな価値」を生むことができた。
先に(5)で述べた一般むけの公開催事やワークショップおよび場づくりでは、参加した方々が、自ら触れたり手入れした家具類に対し、明らかに愛着がわいていることを見てとることができた。このような体験型・参加型の催事は、人々が古いモノを見直すことが浸透していくことに貢献した。
◆波及効果
例えば学内他部局においても、記念的な文脈を持つ古い什器をリペアし再利用するなどの試みがいくつかみられるようになった。また、本研究が直接的要因であるという確証はないものの、困難を極めていた収蔵についても本学の理解がえられるようになり、空調調湿はないながらも保管施設が新設されることにつながった。
また、本研究での活動が、今後のあらたな研究課題につながりつつある。例えば一部の他大学博物館などでも自校史の物証として歴史的什器をとらえる動きもあり、今後の歴史的什器の保存活用およびデザイン・材料・流通等幅広い共同研究の素地となりうる。また、依然として、動産である近代の家具の文化財としての位置付けは、建物に比し殆どなされていない。今後、在野保存のみならず、歴史的什器の保存活用あり方を引き続き探っていく。
最も大きな波及効果としては、現在大学博物館が入る建物ののリニューアルとそれに伴う一部施設の博物館化において、歴史的什器をふんだんに使用し特色ある空間演出を目指すというコンセンサスが得られ、九大博物館将来計画として組み込まれたことが挙げられる。今後、キャンパス移転跡地に入る企業や店舗に呼びかけ、この土地の記憶を歴史的什器で想起するよう在野保存による古いモノの再活用を促していく。このことは、まちづくりにおける新たなブランディングのあり方の提案につながるかもしれない。大規模跡地開発とそこでのまちづくりに並行する今後のこの試みは、九州大学の特殊事情であるため一般化は難しいかもしれない。しかしそのプロセスで得られる課題やその解決およびノウハウを広く共有し、古いモノへの新たな価値づけにつなげていきたい。なお現時点では、これまでの在野保存はほぼ全て相互に満足のいくものとなっている。しかしさらなる持続的運用においては、貸出の簡便化やマニュアルの整備など、さらなる仕組み化と改良が必要である。
広報誌 JOINT
Joint
プロジェクト情報
Project
プログラム名(Program)
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2017 研究助成プログラム Research Grant Program
【(A)共同研究助成
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助成番号(Grant Number)
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D17-R-0714
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題目(Project Title)
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活用文化財としての歴史的木製什器の在野保存―新たな文化財概念の確立とその保存活用方策に関する実践的研究―
"Open Preservation" of Historical Wooden Furniture as Cultural Heritage in Use: A study of a new concept of cultural heritage and the practice of its preservation and reuse |
代表者名(Representative)
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三島 美佐子 / Misako Mishima
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代表者所属(Organization)
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九州大学総合研究博物館
The Kyushu University Museum |
助成金額(Grant Amount)
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¥5,100,000
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リンク(Link)
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活動地域(Area)
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